現在、大手の塾のみならず、中小の塾でも個別指導を取り入れています。広告やWEBページを見ると、授業形態として個別指導が学習にとって最良であるとの考え方のもとに導入をしているようです。しかし、多くの個別指導塾が主張するようなメリットに対して、私は疑問を持っています。
そもそも、「個別指導」という定義が明確なものではありません。塾の指導実態からみると、1対1の授業を「個人指導」といい、「個別指導」は講師1人に対して生徒が2から5人程度のものまで含まれていますので、言葉の意味に注意が必要です。
では、なぜ、「個別指導」の学習効果に疑問を持っているのかを下記に徴します。
集団指導と個別指導を対比して、質問をすることが苦手な子には「個別指導」が向いていると言われているようです。でも、実際に質問がしやすいのでしょうか。「個別指導」の場合では、1対2以上の構成で授業をすすめるため、事実上、各生徒に対する解説時間が2分の1、3分の1になってしまいます。講師を専有していない時間帯は、各生徒は演習や自習をしている時間とならざるを得ません。他の生徒と講師を共有するこことなるので、思い通りにならない場面がどうしてもでてきます。他の生徒に解説している間は、質問もしにくいものです。遠慮がちな生徒はもちろん、そうではない生徒でも質問を躊躇せざるを得ません。上級生と講師を共有する場合にはなおさらです。生徒が4人以上になると、専有時間は極端に短くなり、高い授業料を払って自習をする机を借りることと大差がなくなってしまいます。
2.生徒のペースに合わせることが生徒自身のためになっているのか
「個別指導」の長所は、生徒のペースに合わせて、わかりやすく教えてもらえる、というものです。しかし、自分のペースに合わせて勉強することが本当に良い結果をもたらすのかを考えてみる必要があります。中学生の勉強の目的から、志望高校の受験に合格することを除外して考えることはできません。もちろん、塾に通わせる目的も同じものであるはずです。当然、受験までに合格できる学力をつける必要があります。そのためには、学力を増強するとと もに、学内の定期テストの成績を上げなければなりません。タイムリミットが決まっている学習目標があるのです。そのタイムリミットを軽視して、生徒のペー スで勉強をさせると、ほぼ確実に「やるべきことを終えること」ができません。生徒のペースに合わせた指導では、成績アップに繋がらない恐れが大きいので す。生徒のペースに合わせつつ、タイムリミットを重視した教育をするとすれば、かな り高度のノウハウが必要です。しかし、多くの「個別指導」塾では、講師を地元の大学生が担っています。そのため、高度のノウハウを望む事自体に無理がある のです。高レベルの講師がいたとしても、就職活動開始ととともに、その塾から抜け出ることになります。その後に良い講師が入ってくるかどうかは、運を天に まかせるしかありません。結局は、講師がカリキュラムのペースダウンや、学習内容を縮小して対応することになり、学力が現状維持のままというデメリットにつながってしまうのです。場合によっては、「生徒のペースに合わせる」という一番のメリットが、運用面で致命的なデメリットになる恐れが大きいと考えています。
仮に、「個別指導」においても、生徒が講師の占有時間を十分に確保できているとします。その場合、個別指導では先生が常につきっきりのため、手取り足取り教えてしまう状況ができていることになります。これは、「個別指導」のメリットなはずです。これがうまく運用されていれば、もちろん、個別指導の長所になります。そうすると、生徒は「分からなかったら先生に聞けばいい」と思い、気軽に質問をする状況ができています。しかし、生徒は、そのような状況が用意されているので、自分で辞書を引いて調べるという作業すら省略してしまいます。生徒にとっては、当然の行動です。目の前の先生に「これどういう意味ですか?」と聞けばいいわけですから。これが継続すると、常に「先生に何かをしてもらう」という受身の状態になってしまいます。勉強において大切な「疑問を解決しよう」姿勢を身につけることができませんし、人の中で自分の意見を主張する訓練を積むこともできません。子育てに例えると過干渉状態になってしまうおそれが大きいのです。これでは、自分一人で勉強・作業を進めていく習慣・癖がつきません。「何かを勉強したい」、「勉強する必要がある」という時に、自分一人で勉強計画を立てて進めていく力や癖が身についていない状態では致命的です。これが、個別指導の一番の欠点だと私は認識しています。
個別指導塾での勉強は孤独感に陥りやすく、やる気の維持が難しいこともあります。なぜなら、個別指導では、当然、各生徒の進度は異なります。自分自身がある疑問に直面した場合でも、それが全員がもつであろう疑問なのかどうかがわからないのです。生徒が抱いた疑問が本来は学力を伸ばす切っ掛けであったとしても、ここで、講師がうまくフォローできないと、不安感や自信の喪失へとつながってしまいます。